9)ウニが食べられなくなる!? 知ってほしい「昆布の森」の減少

(トップ写真:Photo by (c)Tomo.Yun

昆布が多く生えている場所「昆布の森」

昆布の森は魚や小エビなどの産卵や生育の場。様々な海の生き物にとっての拠り所となっています。

そして、特に昆布の森を必要としている海の生き物が、北海道の海鮮丼などでも非常に有名な「ウニ」です。「ムラサキウニ」「バフンウニ」などの種類があるウニですが、昆布を餌としており、昆布の森に大量に生息しています。利尻や羅臼など昆布で有名な地域は、同時にウニも美味しくて高級なものが多いです。

というように、地上の森が環境に重要な役割を果たしているのと同様に、海の中では昆布の森が非常に重要なものになっています。

そんな海の生物にとって非常に大きな意味を持つ「昆布の森」が、近年では北海道沿岸部で減少しているそうです。

「昆布の森」減少の原因1:磯焼け

昆布の森が減少している原因はいくつかあるようです。

まず、「磯焼け」と呼ばれる現象。これは無節サンゴモという「石灰藻」が、昆布が生える海底を覆ってしまう現象です。昆布が生育するには、昆布の胞子「遊走子」が海底に着底する必要があります。が、その海底を石灰藻が覆ってしまうわけですから、当然に昆布が着底しにくく、昆布の数はその時点で減ってしまうことになります。さらにエサとなる昆布が少ないことから、ウニがまだ成長していない昆布を食べつくしてしまうということが起こります。これにより更に磯焼けを加速させる結果になってしまいます。

磯焼けは海水温が上がると発生しやすくなります。北海道沿岸においては、対馬暖流の影響でもともと磯焼けが発生しやすい場所もありましたが、現在ではそれがさらに広がっています。ただ、磯焼け自体はウニが初期の成長をするのに必要な場所でもあり、それ自体が悪いものではありません。絶妙なバランスを保って生息していた昆布の森や磯焼けが、地球環境の変化によりバランスを崩しているのが問題のようです。

近年では、磯焼けの対策としてテトラポッドなど大きなブロックを海に沈める、ということも行われています。これは実際に効果も出ており、テトラポッドを海に沈めてから数年間の間は昆布を含め多くの海藻が生育するようになります。

数年経つと、次第に石灰藻がテトラポッドを覆ってしまいます。が、新たにテトラポッドを沈める、石灰藻に覆われてしまったテトラポッドの表面を掃除する、などの対策が取られ、実際に効果を上げているようです。

「昆布の森」減少の原因2:雑海藻

また、別な要因としては、昆布の生育を妨げてしまう「雑海藻」の繁茂ということもあります。雑海藻は地上で言えば雑草であり、雑海藻にはホンダワラなどがあります。この雑海藻の繁茂は流氷と大きく関係しています。

北海道に到達した流氷は、その底面が海底の岩を削る動きをします。この削る動きが海底の岩に付着した海藻類を取り去ります。昆布を含めた海藻類の多くが海底から削られて無くなってしまうのですが、この時に岩のくぼみなどの削られづらい場所に残った昆布が新たに成長することで昆布の森を形成します。逆に言えば、流氷が来て海底をクリーニングする、という現象が起こらないと昆布が育ちづらい環境になってしまい、雑草ばかりになってしまうんですね。

これらの現象により昆布が減ることで、結果的にはそこに生息するはずだった他の生物が生息できなくなってしまいます。もちろんウニも大人になってからの餌を失うわけですから、実入りの悪いものが多くなり、全く食べられないウニばかりになってしまう危険性もあります。

昆布を食べて「昆布の森」減少を防ぐ

前項までで挙げた原因は環境の変化、主に温暖化によるものです。これに加え、漁業関係者が減少していることも間接的な原因になっているようです。

近年、少子化が進み若年人口も減少の一途を辿っています。裏を返せば高齢化も進んでいる、ということであり、これは何年も前から問題視されていることです。

そして、若年人口の減少&高齢化が進むにつれて農業や漁業に新規に携わる人が減少しています。

当然ながら漁業関係者自身の高齢化も進んでいます。漁業関係者の減少と高齢化により、多くの漁場に目が届かなくなっており、そのために荒廃してしまう漁場が増えている、ということです。

昆布の消費量の減少から、昆布の生産量の減少→漁業関係者の減少→漁場の荒廃と悪循環が続いていると考えられます。

前述の磯焼け対策をはじめとして、大学などの研究機関などにより昆布の森を守る磯掃除事業なども行われています。これは一定の成果は上げられているようです。しかし、それもやはり限界はあります。

健康・美容にも良く、とても美味しい昆布を多く食べることで、昆布の森を守っていきたいですね。